個人的な雑感 東芝減損の件
年始でやることもなく、先日の記者会見や過去開示資料などひっくり返してみましたが、やはり込み入っていて「数千億円」というのが何を指すかは想像の域を出ないですね。。
ちょっと整理するだけでも、S&W買収にかかる「のれん」の計上、当該「のれん」の減損、WEC連結での「のれん」の減損(10月1日基準、12月末基準)、(株)東芝連結での「のれん」の減損(10月1日基準、12月末基準)、格付低下→WACC(WARA)の上昇で他の「のれん」や耐用年数のない「無形固定資産」の減損兆候にならないか、S&W社買収プロセスに内部統制の不備は無かったか、特設注意銘柄(最終期限は3月15日)から出られるのか、有利子負債のコベナンツはどうなってるのか…等、かなりの数に及びます。。
以下、個人的な雑感です。
①この3Qで原子力関連事業だけで減損テストを4回やる?(大変。。)
米国会計基準上、のれんの減損テストは少なくとも年に1度、一定の時期に行うこととされており、東芝の原子力関連事業に関しては、WECグループ・(株)東芝の原子力事業どちらも毎年10月1日基準で行うものとされています。
(ただし、減損の兆候がある場合には、随時減損テストを実施する必要有。実際に、2016.2月末時点で(株)東芝の原子力事業で減損テストをやっています。)
既にWECグループ、(株)東芝の原子力事業の双方で、10月1日基準の減損テストが進行(時期的にはもう結論が出ている?適時開示をしていないことを鑑みると、減損無のはずだった?)していると思うのですが、仮に12月末時点でS&W社のPPAが完了し、巨額ののれんが計上され、減損兆候→WECグループでの減損テストで実際に減損が認識されると、(株)東芝の原子力事業でも12月末基準での減損テストもやり直す必要が生じるんじゃないかな、というのが個人的な見立てです。(大変ですね。)
「のれん」だけに絞れば、(株)東芝の原子力事業で持っているのれんはせいぜい1000億円程度で、2016.2月に減損を実施していることを考えると、巨額の減損が出てくるとすればWECグループなのかなと思います。
また不運なことに、この3Qはだいぶ円安が進みましたので、USDで報告するWEC社の損失がJPYベースでは大きく評価されますね。。
②格下げの影響
各種格付け機関のレーティングが12月末に下がっています。原子力関連事業については、WEC・東芝どちらの減損テストでもインカム・アプローチを使っているといっていますから、12月末基準の減損テストはWACC/WARAの上昇の影響があるかもしれません。(将来キャッシュフローの割引率が高くなって、事業価値が小さく算定される。)
原子力関連以外では、ランディス・ギア社(スマートメーターの会社)に関連してざっくり1700億程度ののれんがあるようで、こののれんに関する減損テストに影響がある(格付け低下が減損兆候となって、減損テストを要求される?)かもしれません。
それと、あまり話題になっていませんが、非償却の無形資産でインカム・アプローチで評価してるものって無いんですかね。IR説明会を全部聞いたわけではないので、アナリストの方が質問されていたらすみません(質問しそうな気がします)が、社会的に認識が広まりつつある「のれん」にばかり焦点があたっていて(それはそれで良いことだと思いますが)、PPAで認識した非償却の無形資産の存在が忘れられている気がします。
③特設注意銘柄から脱することができるのか(上場廃止にならないか?)
この点についてもあまり焦点が当たっていない気がしますが、今回の減損損失の話、つまるところS&Wの買収時DDに不備があった(東芝/WECは相当酷いDDをやった)ということで、東芝またはWEC社の企業買収に関する内部統制に疑問符が付きかねません。(子会社の東芝テックのIBM RSS事業買収の件もありますし。。)財務報告に関する内部統制の評価は、正直なところ厳しくない日本基準ですのでどうにでもなるでしょうが、東証との関係で印象悪であることには変わりありません。ただでさえ、特設注意銘柄の指定が継続され、最終期限が3月15日(ここまでに内部統制の改善が間に合わなければ監理ポスト→上場廃止)と迫っている現状で、改善が進捗していることを印象付けたかったでしょうから、泣きっ面にハチですね。
今回いろいろと資料を見ていて思ったのですが、原子力事業の営業利益率が6%程度で、2兆円程度の米国プロジェクトで数千億円の追加費用が突然出てきてしまうのであれば、そんなローリターン・ハイリスクな事業は止めてしまった方が良いような気がします。
*あくまで個人の見解です。内容は的確であることに努めていますが、その正確性や特定の目的適合性を含め何ら保証するものではありません。プロフェッショナルのアドバイスをもとにご判断ください。
韓国海運最大手の韓進海運(Hanjin)の経営破綻 - 保険適用の範囲
英語ですがこちらのほうが詳細です。
こういった国際倒産は、巨額の弁護士費用がかかるんだろうなあ、と思いながらニュースを眺めていたのですが、会社更生法に相当する経営破綻の場合に保険がおりるのかどうか、個人的に気になっていました。外交貨物海上保険の標準約款(ICC)では、確か破産の場合は保険の適用が無かったような気がしていまして。
この疑問にどんぴしゃの回答をJETROさんが用意してくださっています。(以下、JETRO HPより引用。)
【Q2 今回の事態で貨物海上保険は適用されるか】
A.外航貨物海上保険において現在主流となっている 2009年改定協会約款(Institute Cargo Clauses: ICC)では、ICC(A)<1963年協会約款の全危険担保(All Risks)に相当>を付保した場合は、船会社の倒産により保険証券記載の仕向地以外の場所で運送契約が打ち切られ、その結果として本来の仕向地までの継 続費用が発生した場合には保険金の支払いの対象となります(ICC(A)第12条)。ただし、当該倒産情報を被保険者が知っていたか、または通常業務にお いて知っているべきであった場合は対象外となります(同第4条第6項)。また、輸送の遅延についても保険の免責事項となっており、今回の船会社の倒産で輸 送の遅延が生じ、当該遅延によって貨物に損害があったとしても保険金の対象とはなりません(同第4条第5項)。実際に保険金が支払われるかどうかは保険契 約の内容や状況に応じ個別の対応となるため、貨物海上保険を契約している保険会社に個別にお問い合わせください。
韓進海運の経営破たんについて | お知らせ 2016年 - お知らせ - お知らせ・記者発表 - ジェトロ
米アキュセラ・インク(4589)の三角合併
少し前ですが、日本人の窪田さんという眼科医の方が創業されたアキュセラ・インク(米ワシントン州法人で東証に外国株式として上場)の三角合併が開示されています。
ざっくりとした手続きですが、
①米国本社(A)の子会社として、新たに日本法人(B)(この会社が後に東証にテクニカル上場)を設立
②この日本法人(B)の子会社として、米ワシントン州に子会社(C)を設立
③米国本社(A)を米国子会社(C)が吸収。この吸収合併にあたって日本法人(B)の株式を対価として米国本社(A)の株主に交付する
本社を米国から日本に移転する三角合併で、日米の会社法制や税制が絡みあう手続きとなり通常の組織再編と比べて複雑度が高く(しかも日本法人は新規に上場しますし)、会社側の担当者として関わる方は、各方面の専門家と仕事をすることができて非常に勉強になるのだろうと思います。(うらやましいです。)
フード・プラネット<7853> レビュー報告書 結論不表明
珍しいものを見ました。継続企業の前提が担保できないということで、表題のフード・プラネット社で、レビュー報告書に結論の不表明が付いています。
知らなかったのですが、期末決算の監査報告書では「意見の不表明」、四半期決算のレビュー報告書では「結論の不表明」というように、文言が別れるのですね。
過去のIRをざっと見ましたが、色んなことが起こっている会社のようです。会計不祥事の際には、日弁連ガイドラインに準拠した第三者委員会が設置されており、この点は好印象なのですが(某T社や某前都知事の第三者委員会とは違いますね)、ビジネス面でのっぴきならない状況となっているということなのでしょう。
現在の会計監査人もここ最近で就任されたようで、結論不表明とするには、それなりに勇気が必要だったのではと推察されます。解任されたりしなければ良いですが。。
不動産証券化を学ぶーおすすめ本(不動産証券化・信託・会計とか)
ここ最近、必要性があって、不動産証券化について学んでいました。
どちらかというと「金融とかファイナンスとかは、複雑な感じでよくわからんな」という感じだったのですが、学んでいくうちにそれぞれよく出来た仕組みになっていることがわかり、視界が開けた実感があります。
以下、備忘も含めてブックリストです。
①「不動産証券化」をおおざっぱにつかむ
そもそも「不動産証券化」って何ぞや、という状況で、元銀行マン・経理など、会計・財務面に多少の土地勘がある方でしたら、以下の本がおすすめです。複雑なスキーム等には深入りしていませんので、不動産証券化の類型や類型毎の違い、メリットなどをおおざっぱに掴むのには良いと思います。
教科書的な記載のほうが得意、という方でしたら、以下の本も良いと思います。本家の不動産証券化協会から出されている本です。上記の「金融マン…」との違いですが、おおざっぱに言って、上記本がビジネス面を中心に不動産証券化が説明されているのに対して、こちらは制度論から説明されている、といった印象です。
特別法を含め多くの法制度が絡むため、制度論の説明が中心となるのはやむを得ないのと思いますが、例えば金商法の規制など、殆ど金融面の知識がない私にはすこしハードルが高く感じられました。
その他に以下の本も読みましたが、信託銀行が不動産をどのように見ているのかが感じられて個人的にはとてもためになりました。
- 作者: 三菱UFJ信託銀行不動産コンサルティング部,日経不動産マーケット情報
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2012/09/27
- メディア: 単行本
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②信託法を知る
正直、証券化を学び始めるまでは信託のことを全く知りませんでした。投資「信託」のように、非常に身近なところに存在していたにも関わらず何も知らなかった(いわば、無知のまま投資信託を買っていた)のが衝撃で、反省も込めて基礎から学ぶことにしました。
まず読んだのが以下の本です。…が、かなり難しいと感じました。(ただ、読んでいるのは楽しかった。)
信託のスキームでは、基本的に3つの当事者(委託者・受託者・受益者)が登場することもあり、誰が誰に対してどんな請求権を持つのかといった点が、結局整理しきれずじまいです。。
ということで、こちらの本も読んでいるのですが、(著名な)学者の方が書かれているということもあるのか、必要十分な記載となっており(「コノホン、ニホンゴナノニ、ナニイッテルカワカラナイ、という状態)、何度か読み直さないと理解できなさそうです。頑張ります。
すこし先にはなりますが、この2つの本をクリア出来たら、以下のような本に進んでいければと思っています。徐々に世の中の最先端に近づいている実感があって、わくわくしますね。(発売日も最近ですし。)
より広い視点で、流動化・証券化の全般を整理するために
新しいファイナンス手法【第2版】-プロジェクトファイナンス/シンジケートローン/知的財産ファイナンスの仕組みと法務
- 作者: 西村あさひ法律事務所
- 出版社/メーカー: きんざい
- 発売日: 2015/08/18
- メディア: 単行本
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③会計・税務面
おおざっぱな紹介になってしまいますが、会計・税務面については、以下の本が網羅的で必要十分なのではと思います。
SPC&匿名組合の法律・会計税務と評価 投資スキームの実際例と実務上の問題点 (第6版)
- 作者: さくら綜合事務所,永沢徹
- 出版社/メーカー: 清文社
- 発売日: 2016/05/18
- メディア: 単行本
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実際のところ、不動産証券化においてどのような取引が行われているのか、ということさえわかれば、税務の話はありますが、会計上は既存の知識の寄せ集めで対応可能かと思います。(税務の話は、ヴィークルを組成する際の資料を見ていれば、案件組成者か誰かが説明してくれているかと。)
ソフトバンクGの英アーム社買収
3月末時点の連結の現金残高が2.5兆円前後で、今回のみずほ銀行の無担保融資枠が1兆円、買収対価がキャッシュで約3.3億円ということなので、直近のポンド安やここ数ヶ月で続けてきた関連会社株式の整理が無ければ、資金不足だったということですね。
にしても、売上高1,800億円、税引後利益600億円の会社に、いくら成長可能性があるからといって、ぽーんと数兆円も払ってしまうことができるのは、流石としか言いようがありません。
三菱自動車 8年ぶり最終赤字見通し 燃費不正問題で - 内部統制の不備
三菱自動車さんですが、内部統制の不備も開示されていますね。自主的に不備を識別したわけではなく、会計監査人の指摘があったようです。ちなみに、会計監査人は新日本さんです。